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【連載】朝鮮女性独立運動家たちの横顔


花束書房では、『闘う女たち、歴史になる―世界を揺さぶった女性独立運動家14人の肖像―』(絵:ユン・ソクナム、著:キム・イギョン)の日本語版を2024年刊行に向けて準備中です(邦題は未定)。

本の主人公は、日本の植民地支配に抵抗し、独立運動で闘ったにもかかわらず、名前やあゆみが埋もれてきた14人の女性たち。

日本でも知られていない人が多いので、当連載では、本の魅力をより味わってもらうために関連コラムを刊行までに掲載していきます。いまの社会運動やフェミニズムにもつながる歴史を、ぜひ知ってください。


韓国版書籍の企画をたどると、韓国のフェミニズムアートの第一人者ともいわれる画家ユン・ソクナム(尹錫男)が、朝鮮時代の肖像画に女性のものがほとんどないことに疑問を持ち、絵筆をとったことにはじまります。やがてユン画家が描く女性独立運動家たちの肖像画に作家のキム・イギョン(金伊京)が文章をつけるという企画がスタート、2021年に1冊の本にまとまりました。ドキュメント風やインタビュー形式、書簡体など、さまざまな文体で描かれるのも特徴です。


最大の魅力のひとつが、14人への敬意あふれるユン・ソクナムの絵。そこでまずは、多彩な表現を展開してきたユン画家のあゆみについて古川美佳さん(朝鮮美術文化研究)にご執筆いただきました。



           ▲2021年に韓国でハンギョレより出版。




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ユン・ソクナム(尹錫男1939-)――歴史の闇に埋もれた女性を照らし出す表現者


日本の植民地時代、抗日運動に身を投じ熾烈に生き抜いた朝鮮人女性独立運動家たち14人の肖像画を描いたユン・ソクナムさん。「闘争活動は男性の専有物」とばかり歴史から消された女性独立運動家たちが、このたびユン・ソクナムさんの絵筆によって闇からたぐりよせられ、立ち現れた。彼女たちの強靭さとしなやかさが、著者キム・イギョンさんの文章とあいまって視覚的に実感でき、胸がふるえる。

では、この画家ユン・ソクナムさんとは、どんな人? その足跡をふり返ってみよう。そこには韓国フェミニズムの歩みも自ずと浮き彫りになる。


ユン・ソクナムさんの画家としての出発は早くはない。というのも父を亡くし、残された子どもたちを育てる母を長女として助け、結婚、出産を経て1979年40歳で絵を描きはじめたからだ。最初に描いたのが、「10本の手があっても足りない」と題する、身を粉にして働く母の姿だった。そして当時、軍事独裁政権という厳しい政治状況のなかで、ユンさんは同年代の女性美術家たちと〈10月の集い(10月会)〉を1985年に立ち上げる。その後、民主化運動と呼応する民衆美術にも加わり、1987年には〈女性美術研究会〉を結成、男女平等の価値観を共有し、女性解放をめざす母体を標榜した。まさに民主化運動の高揚と共に、女性運動も台頭しはじめた頃だ。渡米経験があったユンさんはやがて民衆美術とは距離をおきつつも、フェミニズム理論にとりくみ制作に没頭、独自の表現で女性たちのネットワークを築き、韓国のフェミニズム文化を牽引していった。ちなみに韓国では当初、いわゆる「フェニズム・アート」は「女性美術」、「女性主義美術」とよばれ、今日でもそのように使われることも多い。


韓国の女性主義美術は、儒教思想にもとづいた厳しい家父長制と階級差別の上で抑圧的な生を強いられる女性たちが、フェミニズムの情報も十分に入らない状況下でその現実に目覚め、民主化運動の深化と共に築かれていった。そうした道程の当初からユン・ソクナムさんの存在があり、彼女たち第一世代がねばり強く表現してきたからこそ、ジェンダーの視座による今日の若い世代の文化が花開いている。

ユンさんの表現は、母をテーマにしたものから、女性の日常の不安定さや危うさを鮮やかに空間化した「ピンク・ルーム」、さらに日本軍「慰安婦」を追慕するオブジェや歴史上の女性たちの無念さを可視化する作品など多彩だ。


ここで本書に戻ると、著者キム・イギョンさんが研究し集めた文献記録や写真資料をもとに、女性独立運動家たちは各々、大型・小型の肖像画、鉛筆によるドローイングという3点で構成されている。大型の彩色肖像画は各人の生涯を象徴する背景や小道具とあわせて全身が描かれ、とくに正面を凝視する目、大きく誇張された手には、それぞれの生きざまが投影されている。まるで女性たちの「集合的な意志」までも物語るかのように。また民画を土台にした韓国画の技法も導入され、西洋画と東洋画というジャンルを超えた新境地が展開されている。




▲日帝企業の搾取に対して、決死のストライキで抵抗した姜周龍(カン・ジュリョン)。韓国では高所など目立つところでストをすることが多いが、そのさきがけといわれる。





「人間の本質について問うならば、まずはその人間の中で、女性であるわたしに対して問うことになる」とかつて語ったことがあるユンさん。それは奇しくも本書で取り上げられている金マリアの「人は人として尊重される価値がある。まず人をつくったのちに、女性をつくったのです」(『女子界』1917年12月号)という言葉とも響き合う。


こうして本書は、何百年も「民族」や「国家」のはざまで歴史の水底に沈み身をすくめていた女性たちの感受性を汲み上げる。それら過去の女性たちの声が、現在のあまたの生をも謳うという点でも、それはまさにもう一つの歴史の姿だ。

歴史の闇に埋もれた女性たちを尊い光として照らし出し、人間の普遍的な生を描くため、ユン・ソクナムさんもまた闘っているのだ。


古川美佳(ふるかわ みか/朝鮮美術文化研究)




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▼尹錫男(ユン・ソクナム)さん他、韓国のフェミニズム・アートと民主化運動の関りについては、古川美佳さん著『韓国の民衆美術-抵抗の美学と思想』(岩波書店、2018年)でも詳しく記されています。


トップ画面の「Resistance」にて、本書に登場する肖像画の一部が見られます。なかには金子文子の肖像画も。どんな人が描かれれているのか、チェックしてみてください。



小勝禮子さんによる、近現代アジア圏のアーティストをジェンダー視点でとらえ直すアーカイブサイトより。画面トップに掲載されているのはユン・ソクナムさんの自画像。画面下部では、代表作のひとつであり、福岡アジア美術館に収蔵されている『族譜』が見られます。


古川美佳さんの記事にある「母」をテーマにした作品が、2023年、水戸芸術館で行われた特別展に出品されました(特別展は終了)。記事中ほどで紹介されています。





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*花束書房と同ジャンルの仕事をまとめています(随時更新)。 ★『信濃毎日新聞』書評 書評委員を務めています。WEBで会員登録(無料)すると月5本まで記事が読めます。 ・1月13日付に『小山さんノート』(エトセトラブックス)の書評を寄せました。 ★『ふぇみん』1面インタビュー ・2月5日号に山川菊栄記念会の山田(樋浦)敬子さんのインタビュー記事が掲載されました。 ★『群像』(講談社)連載「ふたり暮ら

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